研究概要

魚類への毒性に基づく排水中の臭素系ダイオキシン類のリスク管理

ミックスハロゲン化ダイオキシンの中にはダイオキシン(TCDD)よりも毒性が強いものも

ハイライト

概要

2,3,7,8位に臭素あるいは臭素および塩素が置換したジベンゾフランを胚期のメダカに曝露したところ,ダイオキシン様化合物の曝露によって生じる典型的な症状が観察されました。このことから,2,3,7,8位に置換するハロゲンが塩素でも臭素でも類似の毒性影響を引き起こすことが示されました。また,被験物質の卵への取り込み率は,各化合物のオクタノール/水分配係数(log Kow)が大きくなるに従って著しく低下することが明らかとなり,取り込み率を考慮したリスク評価の重要性を示しました。さらに,一部のミックスハロゲン化ダイオキシンはTCDDよりも強い毒性を有することを明らかにしました。ミックスハロゲン化ダイオキシンのモニタリングは十分に実施されているとは言えないため,今後それらの排出量や環境中での挙動を明らかにする必要があります。

本文

臭素系ダイオキシン類は,塩素系ダイオキシン類の一部またはすべての塩素が臭素に置換した類縁化合物です。臭素系ダイオキシン類のうちpolybrominated dibenzo-p-dioxin(PBDDs)やpolybrominated dibenzofuran(PBDFs)は臭素系難燃剤に不純物として含まれるほか,臭素系難燃剤を含む製品の燃焼過程において非意図的に生成することが知られています。我々が実施したモニタリング調査で,臭素系難燃剤取扱施設やプラスチックリサイクル施設,産業廃棄物最終処分場の排水が,PBDDsやPBDFsの主な排出源となっていることを報告しています。

ダイオキシン類のリスク管理には,各異性体の毒性等価係数(TEF)に濃度を乗じた毒性等量(TEQ)の総和が用いられることが一般的です。臭素系ダイオキシン類の化学特性が塩素系ダイオキシン類のそれと似ていることから,塩素系ダイオキシン類のTEFを,ハロゲンの置換位置が同じ臭素系ダイオキシン類に適用されています。しかし,一部の化合物では例え置換位置が同じであっても,塩素と臭素でその相対活性が顕著に異なることも報告されており,臭素系ダイオキシン類独自のTEFを決める必要があると言われています。とくに魚類においては,臭素系ダイオキシン類の相対活性はニジマスの胚を対象にした研究でしか評価されておらず,魚類のTEFを決定するための十分な情報が得られていません。そこで,本研究では,以下の目的を達成するために,初期生活段階のメダカを対象に臭素系ダイオキシン類の毒性を評価しました。

2,3,7,8位に臭素あるいは臭素および塩素が置換したジベンゾフランを胚期のメダカに曝露したところ,”blue-sac disease”と呼ばれるダイオキシン様化合物の曝露によって引き起こされる典型的な症状が観察されました。一方で,非2,3,7,8体のダイオキシンおよびジベンゾフランは極端に高濃度の曝露でも外観から判断出来る悪影響は及ぼしませんでした。これらの結果は,塩素系ダイオキシン類で観察されるものと一致していたことから,臭素系ダイオキシン類の曝露によって生じる表現型の影響は,塩素系ダイオキシン類と共通の作用機序で生じると考えられました。

また,本研究では被験物質の曝露水中濃度と卵内の濃度をそれぞれ測定し,その濃度比から各化合物の卵への取り込み率を求めました。その結果,各化合物のオクタノール/水分配係数(log Kow)が大きくなるに従って取り込み率は著しく低下することを示しました。このことは,水から臭素系ダイオキシン類を取り込む生物においては,従来法による各化合物の相対活性のみを用いたリスク評価では過大評価になる可能性があるため,取り込み率を加味した評価が重要であることを示しています。

さらに,ミックスハロゲン化ダイオキシンである2-chloro-3,7,8-tribromodibenzofuranは2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin(TCDD)よりも4倍程度強い毒性を有することを明らかにしました。ミックスハロゲン化ダイオキシンのモニタリングは十分実施されているとは言えないため,今後それらの排出量や環境中での挙動を明らかにする必要があります。

今後,本研究で求められた相対活性値が,水圏環境における臭素系ダイオキシン類のリスク管理において参照されることが期待されます。 

論文情報

Determination of the relative potencies of brominated dioxins for risk assessment in aquatic environments using the early-life stage of Japanese medaka.

Kei Nakayama, Nguyen Minh Tue, Naoto Fujioka, Hideaki Tokusumi, Akitoshi Goto, Naoto Uramaru and Go Suzuki.

Ecotoxicology and Environmental Safety, 247, 114227, doi: 10.1016/j.ecoenv.2022.114227, 2020 (October 26).
https://doi.org/10.1016/j.ecoenv.2022.114227

研究費情報

環境研究総合推進費(no. 5-1705: JPMEERF20175005)